なぜ いみもなく どきどき してくるの だろう - フジロックにいかないつもりじゃなかった

 

フジロックにいかないつもりじゃなかった」は、これまで一度もフジロックに行ったことがなく、2017年のフジロックにも行くことが叶わなかった、小沢健二Cornelius、そしてフリッパーズギターファンの僕が、「フジロックってこんな感じだろう」「『オザケンCorneliusが同じ日に出演するフジロック』は、こうなったらいうことないなあ」という想像をもとに書いた、平行世界のようなフィクションです。

 

 

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4つのカウントから、「いつか/どこか」の演奏がはじまった。無機質なギターのリフレインと強く歪んだベース音、そしてCD音源よりも存在感があるシンセサイザーの演奏が重なる。スタートから「さよなら さよなら バイバイ アディオス」と歌う小山田圭吾は、白いカッターシャツに黒いスキニーというこの上なくシンプルな服装だ。サングラスをかけた彼の表情は、僕の位置からは読み取ることができない。

2曲目からは「Point」や「SENSUOUS」時代の曲がつづく。正直にいうと、フリッパーズギターは好きだが、解散後の彼の音楽もどれも聴いている、というわけではなかった。「THE FIRST QUESTION AWARD」はまだフリッパーズ時代の余韻を残していたし、「69/96」はブリットロックとハードロックを掛け合わせたような曲もあり趣味とあったため聴き込んでいた。しかし「FANTASMA」以降はリズムや音の運びが難解に感じられ、あまり馴染むことができず、彼の音楽から距離を置いてしまっていたのだ。そんななか今年発売された「Mellow Waves」は、久しぶりに歌ものの曲が多く、「Cornelius、やっぱりかっこいいなあ」と思わせてくれたアルバムだった。

ライヴ中盤では、「未来の人へ」や「夢の中へ」も演奏された。ビジョンに映る彼の顔は、ライヴ当初から変わらず無表情をつらぬいている。この頃になると、少しずつ別のステージへと移動する人たちが増えてきていた。The Templesを見にいく人もいるのだろうが、多くがどこへ向かうのかは想像のとおりだろう。オザケンが出演するWHITE STAGEだ。

かくいう僕も、ライヴがはじまってから悩みつづけていた。ライヴ前まではCorneliusのステージ中盤で余裕を持って抜け、小沢健二のほうへ向かうつもりでいた。しかしいざ演奏がはじまると、想像以上のクオリティと空気感で、なかなかその場から動けなくなってしまったのだ。Corneliusの曲はあくまで音源で聴くのに向いているのだと思っていたが、こうして実際に聴いてみると、Corneliusの空気が一帯を満たし、心地よくさせた。彼の音楽はむしろ生で、ライヴで感じるための音楽だったのだ。聴いたことがなかった曲でもこんなに心が高揚するのであれば、「STAR FRUITS SURF RIDER」や「あなたがいるなら」はどう感じられるのだろう。最後まで聴いていっても、オザケンのライヴには間に合うのではないか、という考えも生まれはじめていた。

周りを見渡すと、見ていくか動くかを相談している様子のカップルや、TwitterでWHITE STAGEの様子を調べる青年の姿が見受けられた。そうしたオーディエンスの気持ちを見透かすかのように、Corneliusは「STAR FRUITS SURF RIDER」を演奏しはじめた。あくまで歌声は冷静そのものだが、リズムに合わせた動きは先ほどより大きくなってきているように見える。その様子はまるで、「おれと小沢健二、どちらを選ぶんだ」と挑発しているようだった。

1番が終わったところでやっと僕は心を決めた。最後までCorneliusのライヴを見ていこう。その分、演奏が終わったらいの一番に動き出せるよう、WHITE STAGEに抜ける通路の方へと移動する。横を通りすぎていく人たちが気にならないことはなかったが、やはり「あなたがいるなら」を聴かずに中座してしまうのは、正解ではないような気がしていた。

「STAR FRUITS SURF RIDER」が終わると、すこしの静寂を挟んでドラムが3拍子を刻み出す。いよいよ「あなたがいるなら」の演奏がはじまった。坂本慎太郎がしたためた言葉を、小山田圭吾の声が音楽へと変えていく。太くて繊細なギターソロが、空気を、心を震わせる。トレモロが感情を洗い流し、ぼくは体が浮遊するような恍惚感に包まれていた。

シンセサイザーの長い余韻をもって、演奏が、ステージが終わった。ふわふわとした感覚にもう少し身を委ねていたかったが、このあとに待つ、また異なる幸福感を与えてくれるだろうライヴへと向かうため、ぼくはステージに背を向けて歩き出した。